平和製粉でも10年前は、国産は2割ほどで、外国産と混ぜてひくことが多かった。国産を増やしたのは02年、県産小麦「あやひかり」が登場したのがきっかけだった。
「中小にしかできない『単体びき』をあやひかりでも始めたんです」。大手は、在庫リスクなどから特定の産地や品種の小麦だけを分けてひくことをしない。そこで、地元産の付加価値を売りに、あやひかり100%小麦粉の生産に乗り出したという。
平和製粉から入荷する四日市市北小松町の「堀製麺」は、安全安心を消費者に訴えようと県産あやひかりを使った「三重県産小麦伊勢うどん」(2袋980円)を8年前から販売する。堀哲次社長(50)は「麺にすると軟らかく粘りがあり、伊勢うどんにぴったりだった」。今やスーパーへの卸売りやネット通販で10万食を売る目玉商品になった。
県内産の小麦需要は、昨年1万8千トンを超えた。同市北小松町で、16ヘクタール中8ヘクタールであやひかりを作付ける農事組合法人「キタコマツフォーム」の堀英雄代表(69)は「背丈が短く倒れにくいので導入した。生産にも力が入ります」。
多様な品種が後押し
小麦の需要拡大を後押ししたのは、あやひかりだけではない。県が多様な特徴を持つ小麦を他県から導入したことや、製粉会社が県内に3社もある要素も大きい。
県中央農業改良普及センターによると、10年前、県産小麦は「農林61号」のみ。あやひかりの導入と平行して、麺に向くタマイズミ、硬いパンに向くニシノカオリを導入。品種ごとに主産地を分けて生産を増やした=図。県内の製粉会社は、小さい生産単位にも対応してきた。
約17ヘクタールでタマイズミを作る伊賀市山畑の山下弘文さん(56)は、収穫した小麦を県内の製粉会社を通じて東京・武蔵小山の「ネモ ベーカリー&カフェ」に年2トンほど卸している。シェフの根元孝幸さん(40)が07年秋、「生産者の顔が見えるパンが作りたい」と山下さんを訪ね、フランスパン「タマイズミ」(220円)が誕生。店には山下さんの畑の写真も置いている。
課題は生産増補助金が頼り
小麦は、米を作っていない水田を使って栽培することが多いため、米の減反政策に左右されやすい。県内では不作だった10年産の生産量は1万600トンで、需要の6割に満たなかった。
県が目標にする13年産の生産量は2万トン。耕作放棄地を活用する指導や、新品種「さとのそら」の普及のため農家で生産試験なども試みる。
だが、小麦は国内消費量のほとんどが輸入で、米国、豪州の広大な畑で作られる。そのため販売価格は安く、国内農家が対抗するには、その3倍ほどの戸別所得補償制度の補助金で生産費をカバーせざるを得ない。
日本では耕作地の半分以上を水田が占め、担い手の米農家を保護してきた。小麦はあくまでも減反を補う「転作作物」に過ぎないのが実情だ。
さらに、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加で関税が撤廃されれば値下げは必至で、戸別補償の財源を不安視する声も出ている。
山下さんは「三重の土地はあまり小麦に向いていない。補助金と合わせて米の方が利益が出るなら、そっちを多く作らざるを得ない」と話す。
小麦の生産と販売
一般的に11月に種をまき、6月に収穫。米と二毛作が可能で、水田を利用するケースが多い。全国生産量の75%が全農を通じて製粉大手4社に流通する。米の標準的な販売価格60キロ約1万2千円に対し、小麦は約2500円。生産費は8千円以上かかるとする試算もある。2011年度の戸別所得補償制度の補助金は、水田活用交付金3万5千円(10アール当たり)、麦や大豆などの畑作物が対象の補助金6360円(60キロ)など
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